こんにちは!
大好きなアルバムはレコードまで欲しがる中林です。
ヒップホップは今もっとも影響力のある音楽の1つですよね。
舐達麻やBAD HOPのような不良の音楽が、日本でも大人気となりました。
kもともとヒップホップという音楽にはそういった側面がありましたし、舐達麻が出てくる前にも街の不良達が作り出したヒップホップはたくさん存在しました。
その中でも
「歴史的名盤」
と呼ばれているアルバムがあることをご存知でしょうか?
それが2006年にSEEDAがリリースした「花と雨」です。
赤い彼岸花が印象的なこのジャケットは、ジャパニーズヒップホップファンにとっては特別な思い入れがあるのではないでしょうか?
14年経った2020年には映画化するほど、ストリートから愛されている作品です。
今回はなぜ、このアルバムが「歴史的名盤」と呼ばれるようになったか、徹底解説して行きたいと思います。
Amazon | 花と雨 | SEEDA, K-NERO, BES, OKI, GANGSTA TAKA, STICKY | J-POP | 音楽 より引用
目次
1、ストリートに絶大な影響を与えた「花と雨」の3つの特徴
このアルバムが名盤となった要因は以下の3つのように思います。
- ストリートで生きる人達の思いを着飾らずに代弁したリリック
- Bach Logicによるトータルプロデュース
- 英語のフローを日本語へ持ち込んだ
それでは一つずつ解説して行きましょう。
1ー1 ストリートで生きる人達の思いを着飾らずに代弁したリリック
SEEDAの名前はそもそもSCARSと言うグループの活動で知られていました。
川崎を拠点とした大所帯のクルーで、ドラッグディーリングや揉め事など、聴いているこちらがハラハラするようなのストリートのトピックを、躊躇無く感情のままにラップするのが特徴でした。
彼らは、「花と雨」の少し前に「The Album」というアルバム(こちらも必聴!)をリリースし、ストリートの話題をかっさらっていました。
更に同時期にSEEDAはDJ ISSOと組んで「Concrete Green」というミックスCDをリリースします。
アンダーグラウンドの人脈を通じて繋がった煙たくて黒いアーティスト達をフックアップし、一瞬にして完売しました。
以後10枚を超える人気シリーズとしてストリートに定着、頭文字を取って「CCG」は「日本一売れたミックスCDシリーズ」として歴史に名を刻むことになります。
Seeda And DJ Isso – Concrete Green (2006, CD) | Discogs より引用
ちなみにCCGシリーズにフックアップされたアーティストには
- Norikiyo
- SD Junksta
- BES
- Issugi
- Ish-One
- Juswanna
- Geek
- Zeus & BRGK
- 仙人掌
- 田我流
- 鬼
- 呂布カルマ
- 神戸薔薇尻 (のちの小林勝行)
など、そうそうたるメンツが集まっています。
こういった活動で注目を大きく集めていたSEEDAが遂に出した総決算的なアルバムが今回の「花と雨」になるわけです。
そういった経緯もあり、このアルバムは全編を通して徹底的にストリート目線で作られています。
2曲目の「Tokyo」は東京の街並みとそこで蠢く人々をテーマにしています。
“東京俺の知る24時/金とエロもろ汚ねーこの街/お嬢さん垢抜けたつもりが/ただのビッチへでもリッチへの近道で”
“BMの覆面近所を回るも/ママチャリのババア昼間すれ違う/無人交番ゲリラするライター/道路脇ただ置かれた花束”
ここで言う「ライター」とはグラフィティライター、つまりはスプレー缶等で壁に絵を描くアーティストのこと。警官が巡回に出て交番が空になった隙に、そこに絵を描いたライターの大胆な表現行為を描写しています。
“おしゃれでカッコいいアイツはレイプ魔/人当たりいいアイツは注射マン/街並みに合う風貌の裏は/背負いきれぬ罪背負った偽善者”
いつもの道ですれ違う他人や何気ない風景の裏側を、見事に描写したリリックです。
「実家住まいでバイト週3日なのに高級車を買った」と嘯くイントロから始まりドラッグディーラーの生活をコミカルに描く5曲目の「不定職者」も、6曲目の「Sai Bai Man」も反社会的な事をテーマにしていますが、決して「ワル自慢」ではありません。y
いわゆる隠語を多用することで「分かる奴には分かる」様に作られており、分からない人には何の事を歌っているのかは分からないようになっています。
それを汲み取れるリスナーにとってはある種の連帯感を生み、SEEDAはストリートの代弁者となっているのです。
彼の作品がアンダーグラウンドでの活動にも関わらず大きく広がっていったのには、そう言った要素が大きく関係しているでしょう。
1ー2 最強のヒットメーカーBach Logicによるトータルプロデュース
次に、このアルバムのトータルプロデューサーBach Logicについて紹介しましょう。
Bach Logicは日本が世界に誇る天才プロデューサーであり、ビートメーカーです。
他にもB.L、鋼田テフロンなどの名前で知られています。
彼が手がけた名曲を挙げるとキリがありません。
間違いなく日本最強のヒットメーカーです。
初期のころは
- Anarchy
- Norikiyo
- SCARS
- 般若
- L-vokal
などへ楽曲を提供し、ラッパーとして参加することもありました。
Amazon | OUTLET BLUES | NORIKIYO, SEEDA, BRON-K, BES, 仙人掌, OKI, 般若, HEADBANGERZ, カミカオル | J-POP | 音楽 より引用
「花と雨」でも「不定職者」でラップを披露しています(これがまたなかなか素晴らしいフロウをもってるんですねー。)
地位を確立した2010年前後になると、
- Rhymester
- Kreva
そして垣根を飛び越え
- EXILE
- 3代目J Soul Brothers
- 西野カナ
- Crystal Kay
- BENI
など仕事のスケールが大きくなっています。
この頃のジャパニーズヒップホップの代表的な曲はまさにBach Logic一色でした。
そして遂に2012年、自らのレーベルOne Year War Musicを設立。
そこからデビューしたのがSALUとAKLOです。
そんな大ヒットメーカーBach Logicが注目されるきっかけとなったのがこの「花と雨」なんですね。
Bach LogicとSEEDAと言う2つの素晴らしい才能が産んだ奇跡のような作品です。
1ー3 英語のフローを日本語に持ち込んだ
SEEDAはリリシズムだけではなく、フロウも非常に高いレベルで持ち合わせています。
それが最も堪能できるのが、同じくSCARSで活動していたもう1人の天才、BESを客演に招いた3曲目の「Ill Wheels」です。
この曲はセルフボーストと呼ばれるヒップホップの王道スタイルですね。
自分のラップやライフスタイルがどれだけカッコいいかを誇示すると同時に、「wack(=ダサい、偽物)」なラッパーを嘲笑う内容の曲です。
この曲の中でSEEDAは自分の事を「リリックの中2度生きるラッパー」だといい、
「言葉の壁は高いがフローは/その上を越すことは可能さ」とラップします。
そしてフック(J-POPで言うサビの部分)は全編英語です。
実はSEEDAは英語と日本語両方を使いこなすバイリンガルラッパーであり、幼少期をイギリスのロンドンで過ごしています。
「花と雨」より前の3枚のアルバムではかなり英語の比率が多く、ラップスタイルも大きく異なり、かすれた声の文字数を詰め込んだ高速フロウが持ち味でした。
今聴いてもその超絶技巧は素晴らしいのですが、歌詞が入ってこない、という欠点がありました。
そこでSEEDAはこの「花と雨」で大胆にスタイルチェンジをします。
日本語に軸を置き、文字数をグッと減らし、言葉と言葉の間を生かし、抑揚に富んだフロウで挑んだのです。
SEEDAはインタビューなどで「日本語をいかにカッコよく聞かせるかにこだわった」という趣旨のことを述べています。
そもそも言語の構造上アクセントが少なく平坦な日本語は、ラップに不向きと言われているんですね。
「私の名前は佐藤太郎です。」
“My name is Taro Sato.”
ゆっくりと発音してみるとよくわかると思うのですが、英語の方が起伏に飛んでいてメロディアスな言語であることがわかります。
英語の言語とフロウの感覚を知っている彼は、それを日本語に持ち込んで生かそうとしたんですね。
結果としてその試みはSEEDAのキャリアを大きく飛躍させました。
彼が「変幻自在のフロウの持ち主」と評される背景には、こう言った要素があるように思います。
2、SEEDAの半生を描いた「Live and Learn」と映画化された名曲「花と雨」
このアルバムからあと2曲紹介しましょう。
12曲目「Live and Learn」はSEEDAの半生を描いた自伝的な作品です。
バース1ではロンドンで過ごした幼少期、「外国人」だったころの心情を赤裸々に描き、バース2では東京での生活と金についてをスリリングにラップします。
僕個人としてはこのアルバムで一番好きな曲です。
パンチラインだらけの名作であり、彼のリリシストとしての真骨頂に触れることができます。
13曲目、このアルバムの表題作でもある「花と雨」は彼の亡くなってしまった姉に向けて捧げた曲です。
恐らく彼の曲の中で最も有名であり、人気の曲でしょう。
“長くつぼんだ彼岸花が咲き/空がかわりに涙流した日/2002年9月3日/俺にとってはまだ昨日のようだ”
フックで歌われるこの感動的な歌詞は、聴くものの心を大きく揺さぶります。
2020年に映画化された「花と雨」ではこの二曲を軸にシナリオを書き起こしているんだろうなーと感じました。
未見の方はぜひチェックしてみてください。
映画「花と雨」オフィシャルサイト より引用
3、シーンの中心に躍り出たあとのSEEDAの活躍
SEEDAはこの作品で一気にシーンの中心へ躍り出ると、翌2007年にはメジャー資本を取り込んで国内外から超豪華な客演陣を集め、5thアルバム「街風」をリリース。
SEEDA/街風 より引用
アメリカからSmif-N-Wessunを招き、さらにKreva、D.O、Ill-Bosstino(Boss the MC)、K.N.Z(K.N.Z.Z)、MC漢と言ったスペシャルなメンバーや、お馴染みSCARS、SD Junkstaまわりもしっかり参加しています。
「花と雨」に比肩する名盤ですが、SEEDA本人がこのアルバムをあまり気に入っていなかったそうです。(リリース時のインタビューで本人が堂々とそう言ってました。笑)
さらにTeriyaki boyzとのテリヤキビーフ、Guinessとのビーフ、突然の引退宣言のち半年(!?)で復帰するなど、さまざまな話題を提供していくことになります。
2012年頃まではハイペースでアルバムをリリースしていましたが、シンガーのEMI MARIAと結婚後は新作のアルバムリリースはありません。
2020年には「花と雨」の映画公開にあわせて、16FLIP(ISSUGI)によるリミックスアルバム「ROOTS & BUDS」がリリースされています。
ROOTS & BUDS “2LP”/16FLIP VS SEEDA|HIPHOP/R&B|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net より引用
現在はYouTubeチャンネル「ニートTokyo」の運営に携わっています。
大物から新人まで、注目のラッパーに対してインタビューをし、一問一答の形で毎日更新しているこのチャンネルは、ヘッズの間ではよく話題に上がる人気チャンネルです。
Abemaで放送中のラップオーディション番組「ラップスタア誕生」には審査員として出演し、数々の名言を残しています。
ヒップホップアーティストから、様々なチャレンジを通してアーティスト達の活動の場を作るオーガナイザーやプロデューサーのような動きをしているのがとても印象的です。
4、まとめ
お疲れ様でした。
今回はジャパニーズヒップホップの名盤「花と雨」について解説しました。
発売から15年近く経っているのに映画化されるほど愛されている理由がお分かり頂けたでしょうか。
- ストリート目線のリリック
- Bach Logicのサウンド
- そしてリリースまでのストーリー
全てにおいて鮮烈で今聴いても新鮮です。
気になった方はぜひアルバムを聴いてみてください!
最後までお読みいただきありがとうございました。
CHILL CHAIR 中林 司
↑日本のヒップホップの歴史を作ってきた他のアルバムについても解説しています。よければ読んでみてください