みなさんこんにちは!
特技は韻を踏むこと、ジャパニーズヒップホップを聴いて育った中林です。
ジャパニーズヒップホップは今や日本の中でも人気の音楽ジャンルの一つとなっていますが、黎明期である25年前にリリースされ、今現在でも
「日本語ラップの教科書」
として語り継がれている作品があることをご存知でしょうか?
その作品が1995年に
- Zeebra(MC/トラックメーカー)
- K Dub Shine(MC/リーダー)
- DJ OASIS (DJ/トラックメーカー)
の3人からなるキングギドラがリリースした「空からの力」です。
現在第一線で活躍しているラッパーでも、このアルバムに影響を受けたと語るラッパーは数多くいます。
今回は歴史的名盤である、キングギドラの「空からの力」が
なぜ「日本語ラップの教科書」と言われるのか?
を徹底解説します。
目次
1、日本人による日本語のラップに絶大な影響を与えたキングギドラの『空からの力』の3つの偉業とは
このアルバムが革新的だったのは以下の3つの点だと思います。
- 日本語でラップする技術の基礎を作った
- ヒップホップの持つ社会的なメッセージを積極的に発信した
- 本格的なストーリーテリングを取り入れた
それでは一つずつ見ていきましょう。
1ー1 日本語でラップするための「韻を踏む技術」を世に知らしめた
まず彼らの1番の功績は日本語でラップするための韻を踏む技術を世に知らしめたということです。キングギドラの2MC、ZeebraとK Dub Shineは単語単位で軽々と4文字以上の長い韻を踏んでいきます。
当時のラッパーのなかでもその巧さは群を抜いていました。
彼らの特徴でもある、「倒置法や体言止めを使って語尾に名詞となる単語を持ってきて、その単語単位で踏んでいく」というやり方はK Dub Shineが最も得意とするやり方でした。
そのテクニックは、サイプレス上野やラッパ我リヤのQはテープが擦り切れるほど聴きまくって参考にした、と証言するほどセンセーショナルだったそうです。
韻の踏み方以外で技巧的なテクニックを挙げると「ダブルミーニング」(=1つの言葉で2つ以上解釈ができる物)があります。
「大掃除」という曲のK Dub Shineのリリックです。
「連れて行かれた位置(1)に(2)三(3)途の川/誰も死(4)後(5)ろく(6)な名(7)前とかもらわず
影の過激派(8)地球(9)自由に脅かし中 死亡数10/まさかの技にキャプテン翼イラつく100点のうまさ
言葉の化学を駆使したMC/地上に降り立った最後の戦(1000)士
遺伝子が繊細 遺伝した天才/余は満(10,000)足じゃ 百万(1,000,000)石の貫禄 誇る弾力性」
歌詞の中に数字を隠しておき、1から100万までカウントアップしていくという遊びをしているんですね。
こういったテクニックを多用して「言葉の扱い方が上手い!!」と思わせてくれるアーティストの先駆者がキングギドラだったのです。
1ー2 「黒人じゃない」日本人が挑戦した社会的なメッセージを封じ込めた曲たちが収録
95年当時、まだヒップホップは「黒人のカルチャー」というイメージが強く、日本人の中ですら日本人がヒップホップをやることに違和感を感じる人が多くいました。
当時のアメリカのヒップホップでは、奴隷として連れてこられた祖先の事や、白人との貧困格差、そして行政ぐるみでの差別(詳しくはNetflixのオリジナルドキュメンタリー「憲法修正第13条」を見てみて下さい)などの歴史を踏まえた上で、人種的なアイデンティティや社会的なメッセージを積極的に発信していました。
そこには差別されてきた黒人達全員の思いを背負ってるぜ、という誇りがあります。
説得力がありますよね。
かたや日本人の場合、敗戦後に民族的なアイデンティティは失われました。
全員を代弁するだけの共通意見も見当たりませんでした。
そこで凝らした工夫の1つが「キングギドラ」という名前です。
キングギドラってもともとは東宝映画の「ゴジラ」シリーズに出てくる最強の怪獣にしてゴジラのライバルなんですね。
海外でも知名度は高いです。
さらにZeebra曰く「キングギドラの金色の体も、ラッパーがよく身につけるゴールドジュエリーと繋がる」そうで、かくして
「空からの力=宇宙からやってきたキングギドラ=ヒップホップという新しい概念で既成概念(ゴジラ)に挑む」
というコンセプトを作り上げたのです。
- 「ヒップホップは日本人にはムリ」
- 「歌も楽器も出来ないミュージシャンが売れるわけがない」
- 「日本はアメリカに勝てない」
という今までの常識をひっくり返そうと意気込んでいた事が、当時のインタビューからも伺えます。
ですのでこのアルバムはKRS-ONEやChuck Dのように、今までの価値観からの脱却を唱えた社会的メッセージを積極的に発信しています。
「真実の弾丸」では学歴社会やマスメディア、資本主義、日本人のアイデンティティにまで言及したかと思えば、「星の死阻止」では大量消費社会と環境問題を取り扱っています。
1ー3 「スタア誕生」によってストーリーテリングをジャパニーズヒップホップに取り入れた
このアルバムの中でも最もインパクトの強い曲の1つに「スタア誕生」という曲があります。
この曲では、「ストーリーテリング」=物語形式で曲が進んで行きます。
「スターになる夢見育った/素直で可愛い女の子だった
小さい頃からの固い決心/かなり熱心に歌とか徹し
高校出たと同時に上京/故郷を後に大都会東京
情況良好そろそろ二ヶ月/仕事選びもほとんど無差別」
主人公の女の子が大都会の闇に飲まれていく様を描いたこの曲は、ライミングの巧さ、起承転結の緻密な構成、そしてリアルなリリックと見事なオチが付き、ジャパニーズヒップホップのクラシックとして認知されています。
Slick RickやCommon、Ice Cubeや2pacなど、ストリートの悲劇や教訓をストーリーテリングで曲にするラッパーは数多くいましたが、日本ではまだまだ未開拓な分野でした。
それをいち早く取り入れたこの曲は、巧みな物語展開も相まってこのアルバム内でも異様な存在感を放っています。
2、活動休止後もなおシーンを牽引し続ける「キングギドラ」
現在キングギドラは活動を休止し、Zeebra、K Dub Shine、DJ OASISそれぞれがソロ活動をしています。
2011年に東日本大震災が起きたタイミングでは名前を「KGDR」へと変更しチャリティライブを開催、その際には反原発のメッセージを込めた「アポカリプスナウ」をリリースしました。
2015年には発売から20年を記念して「空からの力」をデジタルリマスターしたデラックスエディション版が発売されライブにも出演しています。
Zeebraは作品のリリースはしばらくないものの、フィーチャリングワークやフリースタイルダンジョンの主催、ヒップホップ専門ラジオ局「WREP」の運営、さらには自身のレーベル「Grand Master」の主宰を務めるなど、精力的に活動しています。
Zeebra | mysite より引用
K Dub Shineはラッパーとしてリリースを続けつつ、芸能事務所に「文化人」として所属。
そのキャラクターを生かしてバラエティー番組のひな壇やCMの出演などもしています。
DJ OASISも近年目立ったリリースはないものの、クラブでのDJプレイなど主に現場での活動を続けています。
フェスなどの大きなライブでサプライズで3人揃い踏みした時などは、大盛り上がりしますね。
黎明期にラップのテクニックの基礎と、ヒップホップらしいカウンターカルチャーのスタンスを提示した彼らの影響力は、未だにシーンを牽引しリスペクトを勝ち取り続けています。
3、まとめ
お疲れさまでした。
今回はジャパニーズヒップホップの歴史的名盤、「空からの力」について解説しました。
このアルバムが「教科書」と言われる理由がお分かり頂けたでしょうか。
彼らのラップではなく「ヒップホップ」そのものを日本に根付かせようとした活動は、現在のシーンにも大きな影響を与え続けています。
興味のある方はぜひ、アルバムを聞いてみてください。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
ChillChair 中林 司